「お客さまに喜んでもらいたい」 手づくり、無添加にこだわったお菓子を神戸から全国へ

 「お客さまに喜んでもらえるお菓子をつくりたい」。きらきらとした眼差しで語るのは神戸市灘区にある菓子店「VIVANCE(ビバンチェ)」のオーナーである中村鈴代さん。完全無添加にこだわったタルトやケーキなどのお菓子を提供している。店舗販売以外ではオンラインショップでのタルト販売も行っており、地域のお客さんのみならず、日本中のお客さんに笑顔と幸せを届けている中村さんにお話を聞いた。


ある日のタルト。色とりどりの季節のフルーツが鮮やか


加工食品の添加物の多さに衝撃

 生まれも育ちも和歌山という中村さんは短大で栄養士の勉強をした後、20歳の時に食品会社に新卒で入社。新商品開発の担当となった。食品会社を志望したのは、とある新聞記事がきっかけだったという。

「アロエヨーグルトが登場して流行った時期があったのですが、その開発担当の女性が紹介された記事を読んだんです。そもそもアロエとヨーグルトという組み合わせが新鮮だし、この二つが合うよう開発したのもすごい、私も食品の新商品開発に携わりたいと思うようになりました」


 入社した食品会社では冷凍食品やインスタントのパスタソース、カレールーなどの開発を担当し、日々試作に勤しんだ。その時に衝撃を受けたのが、冷凍食品やインスタント食品に入れる食品添加物の多さだった。長期間保存できる、歯ごたえが変わらない、そういったメリットの引き換えに失われる食の安全。「お客さまに喜んでもらえる商品をつくりたいと思って入社したにも関わらず、健康に良いと思えないものをつくるのは苦痛」と感じ、入社2年目で退社。この時、中村さんの胸にあったのはお菓子づくりをしたいという想いだった。

「ある時、東京にある洋菓子店で食べたケーキがすごくおいしくて心から感動したんです。無添加でおいしいもの。これが私がつくりたいものでした」


オーナーの中村さん


再就職した菓子店でお菓子づくりのいろはを学ぶ

 栄養士の知識はあったものの、お菓子づくりに関しては素人。地元の和歌山から神戸に来ては、雑誌で気になった菓子店を巡り、さまざまなケーキを食べた中で本当においしいと感じた1店に履歴書と熱い想いを認めた手紙を送り、働かせてほしいと願い出た。すると返答があり、2日間の試験を経て見事パティシエとして採用されたのだった。しかし、お菓子づくりの知識がほとんどない中村さんを待っていたのは過酷な日々だった。

「他のスタッフは皆、製菓学校出身でベースの知識が全く異なりました。砂糖はシュクレ、泡だて器はフエなどフランス語で呼ぶのですが、そういった言葉も当時は知りませんでしたし、習うのではなく見て覚えろという雰囲気で毎日辛くて泣いていましたね」


 一日も早く成長したいという思いで、朝6時から夜0時まで働き、休日は他の菓子店に行って、お菓子づくりを学ぶ、そんな日々を過ごした中村さんは7カ月経ったころに体調を崩してしまう。職場からは時短勤務を提案されたが、「ただでさえ未熟な私が他のスタッフよりも早く帰るというのは心苦しい」と感じ、退社した。しかし、この7カ月間休む間も惜しんで学んだお菓子づくりの知識はその後の中村さんの確固たる礎となる。


卸販売からクチコミが広がり、菓子店オープン

 その後はお昼は中華店でホールのアルバイト、それ以外の時間で自宅でケーキづくりを行った。友人の紹介でレストランにデザート用としてケーキを卸すようになったのを機にクチコミが広がり、誕生日ケーキのオーダーや他のレストラン、カフェから卸販売の依頼を受けるようになった。

 次第に卸売販売が軌道に乗り、2015年に念願の菓子店「VIVANCE」をオープン。「活発に、生き生きと」という意味のvivaceと「バランス、調和」を意味するbalanceを組み合わせた造語で、お客さまの大切な場面や生活の一部に役立てるように、という想いを込めて名づけた。当時は卸販売が多かったため、店舗を開けるのは週3日ほどが精いっぱい。一人でできることには限界があると感じ、当時から人気の高かったタルトを店の主軸に置くことを決め、2017年夏にはタルトに特化したオンラインショップ「tarte4u(タルトフォーユー)」を立ち上げ、ネット販売も開始した。

VIVANCEのサイト。おいしそうな焼き菓子の写真が目を奪う


夢だった「日経プラス1」で第1位に

 思わぬ連絡が届いたのは、オンラインショップ「tarte4u」立ち上げから半年ほど経った2018年3月のこと。日経新聞から毎週土曜日の朝刊別刷り「日経プラス1」の「何でもランキング※」の果物タルト特集にエントリーしてほしいとのメールが届いた。実は中村さんにとって日経プラス1に自身の商品を紹介してもらうことは昔からの夢だった。

「日経プラス1のケーキ特集の記事を壁に貼って、いつか紹介されるようになりたいと思っていたので、夢でも見ているのではないかと思いました。しかも、そのメールが届いたのが偶然にも私の誕生日。まさに誕生日プレゼントのような出来事でした」


 その後、選考用にタルトを送ると、数日後に見事10位以内に選ばれたとの連絡が届いた。ただし、順位はその時点では知らされず、自身で新聞を見ての結果発表とのこと。新聞発行日の朝、コンビニに新聞を買いに行き、紙面を見てみると、結果は何と1位。

「記事を見て10分間くらいはやったーと喜びました。載りたいと思っていた新聞で自分のつくったタルトが紹介され、しかもそれが1位だなんて、とてもうれしかったです。ただしばらくして、材料も梱包箱も全然足りなくなることに危機感を抱き始めました」


 中村さんの予想通り、いやむしろ予想以上にネット注文が殺到。記事掲載された当日に商品は売り切れ。それから10日間は記憶があまりないという。

「記事掲載から10日間はお店を急きょお休みにして、泊まり込んで、タルトをつくり続けました。家に帰るのはシャワーを浴びるくらい。寝る時間もないので、お店の椅子で仮眠を取るくらいでしたね」

※さまざまなカテゴリの上位10位の商品を紹介するコーナー。


店内に並ぶ焼き菓子。どれもシンプルで優しいおいしさ


お客さまにさらに喜んでもらうために

 現在では、地域のお客さんはもちろんのこと、紙面をきっかけに注文してくれる全国各地のお客さんにタルトを届けている。

「毎月異なるタルトをお届けする定期便サービスでは、北は北海道、南は沖縄までタルトを楽しみに待ってくださるお客さまがいらっしゃいます。季節の果物を使ったタルトで、毎月どんなタルトにしようかと試行錯誤しながら考えてつくっているので、喜んでもらえるたびにありがたいなと感謝の気持ちでいっぱいです」

 やりがいを感じるのはどんな時かと尋ねると「お客さまから、『おいしかった』『今日はこのタルトを食べるために仕事を頑張ってきた』とうれしい言葉を掛けてもらった時」と中村さん。大人気の菓子店オーナーとなった今でも「店舗、オンラインショップともに、お客さまに喜んでもらえる何か新しいことができないかと取り組んでいるところです」とその向上心に終わりはない。




【編集後記】

筆者もこちらのケーキ、タルトの大ファンなのですが、今回の取材で中村さんに高校3年生と中学3年生の二人の息子さんがいらっしゃると知りました。年齢をお聞きしてびっくり。お若くてかわいらしい中村さんはとてもキラキラしています。きっと日々生き生きとお仕事されているからなのでしょう。これからもおいしいお菓子づくりでお客さまに幸せなひとときを提供してくださることと思います。


【店舗基本情報】

店名: VIVANCE(ビバンチェ)

住所: 兵庫県神戸市灘区大石東町2丁目2-10

営業時間: 火曜日、木曜日、土曜日 13:00~18:00

ウェブサイト: 

「VIVANCE」  https://vivance.jp/

オンラインショップ「tarte4u」  https://tarte4u.com/

お店は対面式。のれんをくぐってお声がけを

ライター♩ユキノマミのブログ

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